『なんでも綺麗にしていれば、自分の心も綺麗になる』という祖母の教えを実践し、掃除をしたことで喜んでくれる人の笑顔を見ていると自分も満たされる。

ずっと祖母とふたり暮らしでおばあちゃんっ子なせいか、羽海は年上に好かれやすい。故に病棟のベテラン看護師や、長く入院生活を送っている患者など各病棟にどんどん顔見知りが増えていき、今ではどこを担当しても誰かしらに声をかけてもらえる程だ。

やりがいのある仕事で、将来への小さな夢にも出会えた大切な職場だが、今月に入って格段にやりづらくなった。

羽海の今日の持ち場は病棟の十二階から十四階。十二階には心臓血管外科があり、彗や看護師の仁科が勤務しているフロアだ。

回診の時間は病室への立入りを避けるためバックヤードを中心に清掃していると、棘のある声をぶつけられた。

「ちょっと、休憩室のゴミ箱が溜まったままなんだけど」

ベテランや既婚の看護師などは特に態度は変わらないが、この病院の後継者と名高い彗を狙っていた独身の女性たちは、皆すべからく羽海に対する当たりが強くなった。

その筆頭が、目の前で眦を吊り上げている仁科だ。

羽海はため息をつきたいのを我慢して、努めて冷静に口を開いた。