七十五歳と高齢のため手術は心配ではあったが、感染症のリスクなどから逆に早めに手術をした方がいいと主治医から説明を受けたのが昨日。

サインした同意書を持って仕事終わりに病室に寄ってみると、昨日貴美子がいたはずの四人部屋の右奥のベッドで、見知らぬ五十代くらいの女性が本を読んでいた。

ベッドの枠についている名札に書いてある名前は貴美子のものではなく、慌てて出た病室の入り口にあるプレートを確認すると、祖母の名前がなくなっている。

なにか事情があって別の病室に移ったのだろうか。

(もう。それならそうと連絡くれればいいのに)

貴美子は新しいもの好きで、羽海よりも最新モデルのスマホを使いこなしているため、普段から連絡はメッセージアプリを利用している。

連絡さえくれていれば、見知らぬ四人の入院患者にぽかんとした顔をされるような恥ずかしい思いをせずに済んだのに。

穏やかだがマイペースすぎるのが玉に瑕の祖母に心の中で文句を言いながら、目当てのスタッフステーションで近くにいた看護師に声を掛けた。