いい年になっても家族に紹介できる相手がひとりもいないのを危惧したのか、三十路になっても恋愛する気がないのなら相手を紹介してやると祖母が口を出してきたのが約一年前。

先月三十歳になり、十日ほど前に特別病棟で羽海を紹介された時は、いよいよだと覚悟を決めた。

御剣家の利になるような縁談ではなさそうだが、祖母が決めたのならなにか理由があるのだろう。

早速一緒に住んでみろという提案には驚いたが、相手の素性を知るには手っ取り早い。

大病院の後継者と結婚したいがゆえに理事長である多恵に取り入ったであろう羽海に、条件を飲めるのなら結婚してもいいと伝えると、なぜかきっぱりと断ってきた。

羽海の祖母の病室で交際や同居の話が出た途端に縋るような視線を向けてきたので、てっきり羽海は自分に気に入られたくて必死なのだと信じ込んでいた。

(あれは、まさか断ってくれという視線だったのか……?)

しかし後日、彗のマンションに彼女の荷物が送られてきたので、結婚に条件をつけられたことに憤ったか、女特有のくだらない駆け引きだったのだと結論付け、煩わしさを感じると同時にこれからの生活を思うと朝から鬱々とした。

経験上、こういった駆け引きをする女は、大抵恋愛脳で面倒な騒ぎを引き起こす。

これまで彗は短期間でも家族以外と生活を共にしたことがない。恋人を自分のテリトリーに入れたことはないし、逆もまた然り。