彼が食べなければ翌日の朝食にすればいいと軽く考えていたし、そもそも自己満足なのだからそれで構わない。

食事をするたびに自分の分しか作っていないと罪悪感を持つのが嫌なだけなのだ。

こんな豪華な部屋に住む彼には質素すぎる食事かもしれないと思ったが、忙しい医師なら栄養バランスの取れたものを口にする方がいいと考えて優しい味付けの和食にしてみると、翌朝には空になった食器がシンクに運ばれていて、特に文句や嫌みも言われなかった。

傍若無人な俺様と言われる彗が食べ終わった食器を自分で下げるなんて意外で、その姿を想像して可笑しくなる。

羽海が家事を担うことを受け入れられたのだと解釈したが、弁当を作るのは踏み込みすぎている気がするし、朝食を作ったところで一緒の食卓につくのは気まずすぎるため、夕食だけ毎日準備し続けている。

洗濯と彗の私室以外の掃除はすべて羽海がしているが、こちらも文句を言われたことはない。

同居初日こそ帰宅後はすぐに自室に引っ込んだが、実家ではひとりでも居間で過ごす時間が多く、籠もりっぱなしは性に合わないためリビングで過ごしている。

風呂あがりのすっぴんと部屋着姿を見られるのは恥ずかしいと躊躇したが、女性として意識されていないのに自意識過剰だと思い直し、気にしないことにした。

部屋の中のものは好きに使っていいと言われているし、気を遣っても仕方ないと割り切っている。

その日も料理を作り、食事を終え、後片付けまで済ませてソファで寛いでいたところに、玄関の鍵が開いた音がした。