天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「大丈夫。ありがたく居候させてもらってる」
「居候ねぇ。素敵な男性だし、羽海ちゃんにぴったりだと思うんだけど。でもこればっかりは当人の問題だから仕方ないわね。おばあちゃんが退院する頃になっても羽海ちゃんが彗さんとはお付き合いできないっていうのなら、きっとご縁がなかったってことねぇ」
「うん。私もおじいちゃんとおばあちゃんみたいに、運命の相手は自分で探したいよ」
「やあね。運命の相手は、探さずとも案外近くにいるものよ」

その後、退屈していた祖母のおしゃべりに三十分ほど付き合い、スーパーで食材の買い物をしてから帰宅した。

彗に『無駄で不要』と言われたにも関わらず、羽海は同居翌日から掃除や料理などの家事を一手に引き受けていた。

彗は意外にも努力家らしく、在宅時は書斎に籠もって勉強している。

毎日忙しく働き、短い休憩時間すら呼び出され、数少ない休日を勉強に費やす彼の医師としての姿を間近で見ていると、自分の分だけの食事を作ったり洗濯をしたりすることに抵抗があった。

無償でこの部屋においてもらっている現状も居心地が悪い。

文句を言われる覚悟で家事をしようと決めたのは、彗のためというよりは羽海自身の精神的安定のためだ。

自分以上に忙しく働いているのを知ってしまえば、不要と言われたからとなにも手伝わないでいられるほど羽海は図太くなれない。

彗が帰ってきた時に気が向いたら食べられるよう、夜食に小さな焼きおにぎりと野菜たっぷりのコンソメスープをダイニングテーブルに置いておいた。