天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


瞬時に医師の顔になった彗は通話ボタンを押し、電話越しに指示を出している。

どうやら交通事故で負傷した患者を受け入れ、緊急手術になりそうなため彼を呼び戻す連絡らしい。

一分にも満たない電話を切ると、彗は羽海に向き直った。

「さっきの話。ああいうのが続くようなら俺に言え。羽海たちの仕事はなくてはならないものだ。あんな風に言われる筋合いはないだろ」

思いもよらぬ言葉に、羽海は目をみはる。

「……なんだよ」
「いえ、そんな風に言ってもらえると思わなくて」
「当然だ、清掃員がいなければ病院は成り立たない。じゃあな。昼飯、ちゃんと食えよ」

それだけ言うと、羽海を残して駆け出していく。

(私たちの仕事を、なくてはならないものだって言ってくれた)

羽海にはちゃんと食べろと言ったけれど、彼はきっと食事を取る暇などないほど忙しくなるのだろう。走り去る後ろ姿にやはり医者なのだと見直し、胸の奥がきゅんと鳴った。

(いやいや、きゅんとはしてない。ただ、お医者さんって凄いなって思っただけ。意外と優しいところもあるんだなって思っただけだから)

羽海は誰にともなく心の中で言い訳すると、午後に備えて再び大きな口でおにぎりを頬張った。