天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「御剣先生」
「ああいうのは中学で卒業してほしいものだが。他にもなにか言われたりしてるのか」
「他も似たり寄ったりです。見ていたのなら恋愛関係ではないと否定してくれたらいいじゃないですか」

助けてほしいとは思わないが、彗の誤解を招く発言が元凶なのだから訂正くらいしてもらいたい。

同居は事実だが、自分たちは彼女らが思っているような関係ではないのだ。

「結婚してしまえば、ああいうのも減るだろ。言い寄ってくる女もいなくなって、俺も仕事がしやすくなる」
「ですから、私は結婚しないと何度言えば」
「俺は羽海と結婚したい」

言葉に被せるようにまた名前を呼ばれ、羽海の鼓動が高鳴る。

普段打ち合わせで顔を合わせる看護師ですら『清掃員さん』なのに、接触しない医師である彗が自分を名前で呼ぶのが、きちんと個として尊重されている気がして嬉しく感じた。

(いやいや、名前を呼ぶなんて普通のことだし)

今日はなにかと蔑まれているせいで、当たり前の価値が上がっているだけ。そう結論付けて自分を落ち着かせていると、救急車のサイレンが近付いてくるのに気付く。

ハッとして彗を見ると、すぐに彼の院内用の携帯が鳴り響いた。