天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


もちろん羽海はいつも通りピカピカに磨いていたが、休憩に入る前にもう一度トイレを掃除してから来た。それを告げたところで、彼女たちには全く関心はないだろうとわかっているのだけれど。

「遊ばれてるだけのくせに大きい顔をして彗先生の担当病棟を歩くなんて恥ずかしくないの?」
「彼は誰にも本気にならないって有名なのよ」
「そもそも、立場も見た目も釣り合い取れてなさすぎ」

案の定、仕事の話ではなく言いたい放題の嫌みをぶつけてくる。

(お決まりだってわかってるけど、本当にやめてほしい。それに今週はずっと私が十二階の担当なんだから仕方ないじゃない)

羽海は食べかけのおにぎりを膝の上で持ったまま、小さくため息をついた。

本当に彗の恋人や婚約者ならば、刃のように突き立てられた言葉の数々に傷つくだろうが、生憎羽海はそうではない。

だから彼女たちの思う通りにショックを受けたり泣いたりといったリアクションはないし、反発心が湧くばかりだ。

そんな羽海の様子が気に入らないのか、さらに悪意を剥き出しにして辛辣な言葉をぶつけてくる。

「患者からシンデレラだなんて言われていい気になってるんでしょうけど、たかが清掃員が彗先生と婚約なんて分不相応だってわからない?」
「ほんとほんと、身の程を知らないって不幸だわ」
「急に同居に持ち込むなんて、どんな卑怯な手を使ったの?」

三人が口々に言い終えると、中央に立つ仁科は細い顎をツンと上げて、ベンチに座る羽海を見下ろした。