クリーン&スマイルから御剣総合病院には羽海を含め約三十人の清掃員が派遣されていて、病棟担当の場合は三階分をひとりで掃除する。各フロアには多数の病室があり、他にも廊下やトイレ、検査室や談話室など作業範囲が広い。
朝八時から夕方の五時までにすべての場所を磨き上げるには、順序立てて効率よく回っていかないと間に合わない。
今日はいつも以上に患者さんに話しかけられるためなかなか作業スピードが上がらず、さらに普段は言われたことのない苦情を各フロアの看護師たちから立て続けに言われ、昼休憩に入る頃にはぐったりしていた。
午後一時を過ぎ、ようやく前半のノルマを終えてランチのために中庭へ向かう。
病院の食堂も使えるが、羽海は真夏と真冬以外はこの憩いの庭で休憩を取ることにしている。いつもは弁当を持参しているが、今日は彗の部屋から出勤したため作れなかった。
小川が流れる側のベンチに腰掛け、コンビニで買ったおにぎりとサラダを食べていると、スクラブ姿の看護師が四人、目の前に立ちはだかった。
今日はやたらと掃除が行き届いていないとクレームを言ってきた仁科もおり、嫌な予感に食事の手が止まる。
「……なにか? 言われた通り、トイレの便座も鏡も磨き直しておきましたけど」
病棟の廊下で大声で注意されたのはつい一時間ほど前。
通りがかった患者が『みっともないからやめなさい』と止めてくれたが、あの静止がなければ小言は倍以上の時間続いただろう。



