天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「いや、あの、ですから……」
「それより腹が減った。食べに出るぞ」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「もう食べたのか?」
「まだですけど」
「じゃあ問題ないな。行くぞ」

話はまだ終わっていないと引き止めたものの、強引な彗に連れられ食事に向かうことになり、その日はそれ以上話し合いはできなかった。


翌日。人の目のあるところで意味深な会話をしたせいで、彗と羽海の同居が病院中に知れ渡っていた。

格好の噂の的で、どこで掃除をしていても誰かしらの視線を感じる。

しかも、彗は同居を始めた羽海を朝から婚約者だと触れ回っているらしい。

「おはよう、羽海ちゃん。聞いたよ、御剣先生と婚約したんだって?」
「私も聞いたわよ。おめでとう」
「この病院の御曹司相手とは。まるでシンデレラだなぁ」

病室に入るなり、何人もの患者さんから祝福の言葉を貰った。そのたびに「違うんです」と訂正しても照れていると勘違いされ、居心地が悪いことこの上ない。

仕方なく、羽海は心を無にして清掃を続けた。