天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


けれどどんな事情があろうと、これから住まわせてもらう家主に対し「仕方なくご厄介になる」だなんて失礼極まりないし、他人が家に転がり込んできて「迷惑」だと言いたいのは彗の方だ。

羽海は慌てて口を手で覆い、頭を下げた。

「す、すみません。口が過ぎました。申し訳ありません」

謝罪の言葉を言い終え、ぎゅっと目をつぶる。

立場を弁えない失礼な発言に怒った彗に、すぐに出て行けと言われても仕方がない。

それどころか次期院長と目される彗ならば、会社に苦情を入れ、清掃員のひとりくらい解雇させられるかもしれない。

(あぁ、私のバカ。なんで思ったことをすぐ口にしちゃうかな)

羽海は短慮な自分を反省しながら、せめて仕事だけは辞めさせないでほしいとお願いしようと顔を上げた。

すると、彗は口角を上げ、瞳に強い光を湛えて羽海を見つめている。

その眼差しに射竦められ、ふたりは視線を絡めあったまま向かい合った。

「決めた。俺は羽海と結婚する」

これだけ至近距離で見ても美しい顔に思わず見惚れていたが、羽海は再びがっくりと項垂れる。

今の会話で、どうしてそんな結論に達するというのだろう。