天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


(アピールってなに? どうして人の厚意を斜めに受け止めちゃうんだろう)

初対面でも思ったが、確認せずにブラックコーヒーを頼んだり、したくもない結婚に条件を突きつけたりと、人の話を聞かずに突っ走る悪癖があるようだ。

羽海は強気に睨んで言い返す。

「アピールなんてしてるつもりはありません。お世話になるので、家賃を出せない代わりになにかしなくてはと思っているだけです」
「それが無駄で不要だと言っている。いちいちそんな気を回さずとも結婚はする」
「……はい?」

言い方がいちいち嫌みっぽく聞こえムッとしてしまうが、それ以上に捨て置けない発言を耳にして、羽海の頬がひくりと引き攣る。

「何度も言わせるな。条件さえ守れるのなら結婚するし、この部屋も金も好きに使ってくれて構わない。言質を取りたいなら録音でもなんでもしてくれ」
「……なにを言ってるんですか。しませんよ、結婚なんて」
「そっちこそなにをムキになってるんだ。祖母に取り入り、こうして同居に持ち込んだのはお前の方だろう。今さら猫をかぶったって無意味だし、どれだけ家庭的なアピールをされても俺は恋愛する気はない」

一方的な話し方をする人だとは思っていたが、ここまで話が通じないとは。

彗には羽海が彼と結婚したいがためにこの部屋に押しかけて来たと映っているらしい。