(なんか、こっちが変に気を使うのもバカらしい気がしてきた)
強張っていた身体からすっと力が抜ける。
貴美子だって『絶対に結婚させようだなんて思っていない』と言っていたのだし、実家のバリアフリー工事が完了するまでの期間だけ、図々しく住まわせてもらおうと決めた。
「あの、じゃあお世話になります。あっ、家賃ってどうしたら……」
「いらない。そもそも清掃員の給料じゃ、折半だろうと払えないだろ」
困り顔で尋ねると、彗は一瞥して羽海の疑問を切って捨てた。
確かにこんなに高級な部屋の家賃がいくらするのかなど、ずっと実家暮らしの羽海には想像もつかない。聞かないほうが身のためのような気がする。
とはいえ無償で住まわせてもらうわけにはいかないと、羽海は少しの間逡巡し、家事をすると申し出た。
「御剣先生が嫌でなければ、住まわせてもらっている間、私が家のことをしてもいいですか? 食事とか洗濯とか。掃除は先生のお部屋以外になりますけど」
そう提案すると、目の前の彗のこめかみがぴくりと動く。なにか気に触ったことを言っただろうか。
「家庭的なところをアピールする気か。無駄なことはしなくていい」
ため息交じりであからさまにうんざりした顔で言われ、羽海は呆気に取られた。



