丁寧に頭を下げる制服姿の男性に会釈を返し、エレベーターに乗るにもカードキーを翳さなくてはならないことに驚く。
そのエレベーターの階数表示には最上階である五階のボタンしかなく、各フロア直通のエレベーターがあるのだと理解し、さらに驚いた。
驚愕の連続にひとり息も絶えだえになりながらフロアへ辿り着くと、彗が一番奥の扉を開けて羽海を中に促す。
「おじゃまします」と蚊の鳴くような声で呟き、出された客用のスリッパに足を入れた。
玄関を入ってすぐ右手に扉があり、その奥には二十畳はあるであろうリビングが広がっている。
まるでモデルルームのような隙きのないインテリアは、あまり生活感を感じさせず、本当にここに住んでいるのかと疑問に感じるほどだ。
「お前の部屋はこっちの一番奥だ。届いた荷物は全部そこに入れてある。風呂とトイレはここを使え。俺は自分の部屋の奥にあるものを使ってる」
玄関から正面に続く廊下の突き当たりが彗の寝室、その隣が書斎になっていて、キッチンの裏手になる一番奥の部屋が羽海にあてがわれるらしい。
言われたドアを開けると、十二畳の洋室に羽海が見慣れたベッドやデスク、ドレッサーが所在なさげに置かれている。
これまで六畳の部屋にきゅうきゅうに置かれていた家具たちも、あまりの部屋の広さに戸惑っているように見えた。



