いつの間にか巻き込まれて渦中の存在になっているが、決して本意ではないのだ。

それなのに、どうして踏み潰される雑草のような気分にならなくてはいけないのだろう。

「帰るぞ」

心の中で反論しながらも、口に出さずに彗についていく。

彼の部屋にすべて荷物がある以上、羽海に拒否権はなかった。


「ここだ」

言葉少なに案内されたのは、病院から徒歩五分ほどの低層レジデンス。

石造りのエントランスを入ると、開放感溢れるロビーは白と黒を基調にしたシックなデザインになっていて、ラウンジに続く共用廊下には、いかにもハイセンスなデザイナーが手掛けたであろうひとり掛けのソファが無秩序に並べられている。

(これってインテリア? それとも座る用? お金持ちのセンスってわからない……)

建物の中央は最上階まで吹き抜けになっていて、海外の高級ホテルのようにおしゃれな空間だ。

築六十年は経つであろう木造の家に祖母とふたりで住んでいる羽海にとって、なにもかもが未知の世界で、個人が住むマンションにコンシェルジュサービスがあるというのも今日初めて知った。