羽海は貴美子の「なんでも綺麗にしていれば、自分の心も綺麗になるのよ」という教えを受け、昔から掃除が好きだし、自分の仕事に誇りを持っている。
患者や病院スタッフから「綺麗にしてくれてありがとう」と声を掛けられれば嬉しいし、少しでも役に立っているのだと実感できた。
だからこそ、より役に立ちたくて介護などを学んでみたいと、ぼんやりではあるが夢を持つようになったのだ。
彼女たちは自分より格下だと思っている清掃員の羽海が、この病院の御曹司と口を利いているだけで不愉快なのだろう。
般若のような顔で睨む女性たちの中に仁科の姿もあり、羽海は今日何度目かのため息をつく。
これで同居の話まで広まってしまえば、職場での居心地が悪くなるのは火を見るよりも明らかだ。
羽海の憂鬱な心の内を知る由もない彗は、近くまで来ると目を眇めて見下ろしてきた。
「遅い。今回は連絡先を知らない状況だから見逃すが、次からは遅れるなら必ず連絡しろ。時間を無駄にするのは好きじゃない」
不機嫌そうに言われ、羽海はムッと口を尖らせる。
(そっちが一方的に言っただけで、約束なんてしてないじゃない。だいたい、この人が病棟で話しかけてきたせいで、私は明日から針の筵かもしれないっていうのに……)



