駅までは徒歩十分。日が暮れ始めた周囲は先程より薄暗く、人通りも少ない。
道路の端に先週まではなかった【不審者注意!】の看板が置かれていて、どことなく不安を煽られる。
警官が巡回しているとはいえ、やはり少し怖い。
足早に駅に駆け込み、病院の最寄り駅まで移動すると、彗に一方的に告げられた待ち合わせ場所である中庭へ向かう。
まだ彼の家へ行くと決めたわけではないけれど、今羽海に与えられた選択肢はそれしかないように思えた。
正面玄関の左側からぐるりと回り、病院内とは思えない緑豊かなレンガ敷きの小道を進む。
たくさんの木々や色とりどりの花が植えられ、小川も流れている『憩いの庭』では、夏は出店を呼んで祭りを楽しんだり、冬はイルミネーションで飾ったりと、その名の通り患者の憩いの場となっている。
去年一年間、羽海はこの中庭の清掃を担当していて、よく多恵とおしゃべりをしていたのもこの場所だ。
病院で働くようになり、入院患者や高齢者と接する機会が増えると、そうした人たちのケアに関わる仕事に興味が湧いた。
今の清掃の仕事も好きだが、もう少しお金を貯めたら介護に携わる資格を取る学校へ行きたいと考えている。
『転職に有利になるし、おばあちゃんのためにもいつか役に立つかもって思って。まだただの夢ですけど』
『素敵ね。羽海さんのお祖母様は幸せだわ』
『ありがとうございます。そのためにも、一生懸命働いてお金貯めないと』



