(私の話、聞く気がないの? 噂通り俺様な人なんだ)

長い脚を組み、白衣姿で片手にコーヒーカップを持っている姿だけ切り取れば、映画やドラマのワンシーンのようで誰もが見惚れるだろう。

しかし、羽海の眉間には深い皺が刻まれている。

きっと貴美子が見れば、揃えた指でおでこをぺしっとたたき「羽海ちゃん、人様に対してそんな顔しないのよ」と叱られるだろう。

わかっていても、勝手にこんな顔になってしまうのだ。

それほど、彗の態度は羽海にとって許容しがたく映った。

「それさえ守れるのなら、結婚してもいい」

上空何千メートルという単位の上から目線に、羽海は一瞬、なにを言われたのかわからなかった。

(結婚……してもいい? 見ず知らずの私と? しかも恋愛感情を持たないならって……。一体結婚をなんだと思ってるんだろう)

羽海は恋愛経験はないものの、祖父母の馴れ初めを聞いて育ったため、結婚には大いに夢を抱いている。

愛し愛され、なにをおいても〝この人と一緒にいたい〟と思える相手と結婚したい。