天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「ふふ、鬼の目にも涙ですね」
「お互い様だな」

大仕事を終えた羽海に頬を寄せ、彗は何度も感謝の言葉を伝えてくれた。

「ありがとう、羽海。頑張ったな」
「はい。彗さんがいてくれたから」
「出産する母親の前では、父親も医者も無力だな。側にいるしかできない」

汗に濡れた羽海の額を撫で、彗は脱力しながら苦笑する。そんな彼を見て、羽海は微笑みを浮かべた。

「それでいいんです。忙しいのに立ち会ってくれてありがとうございます」

きっと彼はこのまま寝ずに翌日の勤務に向かうのだろう。自分の身体もボロボロだが、彗の体調も心配になる。

「相変わらず欲がないな」
「そうですか? 側にいてほしいだなんて、とても贅沢な願いだと思います」

祖父を知らず両親を早くに亡くした羽海は、ただ〝側にいる〟のがどれだけ難しくて幸せなことなのかを知っている。

愛する人に想われ、同じ家で暮らし、作った料理を残さず食べてもらう。

日常の些細な出来事すべてが彗とふたりなら新鮮に感じ、楽しくなる。

これからは三人で、より彩りに満ちた生活が待っているのだ。