「もうっ」
「怒るなよ。お腹のちびがビックリするだろ」
職場で嫌みを言われたり嫌がらせを受けたりしたのを知っているからこそ、こうして周囲の目を気にせず接してくれているのもわかっている。
意地悪かと思えば甘やかされ、常に大切にされているのだと実感させてくれる彗に愛しさは募るばかり。
愛し愛されながら、子供が生まれるまでの束の間の夫婦水入らずの生活を思いきり満喫していた。
予定日より一週間早い四月八日、仕事中に陣痛に襲われた。
多恵と理事長室にいた羽海は、痛みの間隔を計りながら産婦人科へ向かう途中で破水してしまう。
途端に痛みが強くなって蹲っていると、多恵から連絡を受けた彗が駆けつけ、抱きかかえられて処置室へ。
それから何時間も陣痛に苦しみ、日付の変わった夜中の三時に男の子を出産した。
幸い夜勤や緊急オペの予定が入らなかったため、彗もその場に立ち会うことが出来た。
へとへとになりながらも我が子の誕生に感涙している羽海が彗を見上げると、彼もまた感動で瞳を潤ませている。



