温かいカップを受け取りながら、初めて会った時のことを思い出した。

確認もなく飲めないホットコーヒーを頼まれたあの日とは違い、羽海のことを考えて選んでくれた彗を見上げ、本当に印象が変わったとしみじみと感じ入る。

すると、紅茶のカップと一緒に小さなクッキーの袋を渡された。

「これは?」
「返却口で貰った。今週だけのサービスらしい。チョコだけど食べるか?」
「そっか、バレンタインだったから。一昨日も食べちゃったけど大丈夫かな」

チョコレートにもカフェインが含まれているため普段は控えているが、まったく摂取してはいけないというわけでもないので、バレンタイン当日は手作りしたフォンダンショコラを彗とふたりで食べた。

その際、口を開けて〝食べさせろ〟と言わんばかりに待っている彗の要望に応え、人生初の〝あーん〟にチャレンジしたのだが、照れくさくて真冬だというのに身体が熱くて仕方がなかった。

『い、いい加減自分で食べてくださいよ』

何度か口に運んだあと、恥ずかしさに耐えきれずフォークを置いた羽海の手首を掴み、甘ったるい香りを纏った彗が顔を寄せる。