「将来、羽海が理事長になれば実質俺の上司になるんだ。シンデレラっていうより豊臣秀吉だな」

休憩中、職員食堂で噂話を耳にした彗が可笑しそうに羽海に視線を送る。

「まだそうなると決まったわけでは。……というか、そのたとえ嬉しくないんですけど。サルってことですか?」
「下剋上って意味だろ。王子に見初められて結婚なんてつまんない話より、自分の能力と人柄でのし上がっていくサクセスストーリーの方が気の強い羽海らしいしな」
「なんか、そう聞くと可愛げがないですね」

相変わらずたわいないことをぽんぽん言い合う幸せそうな御剣夫妻の様子は、昼休憩の名物になりつつあった。

決まった時間に休憩がとれる事務の羽海と違い、多忙な彗と職員食堂で並んでランチをとれるのは週に一度あるかないか。

周囲の好奇な視線は気になるが、一緒にいられる貴重な機会とあって時間の合う時は一緒に食事をしようと決めている。

Aランチを食べ終えると、ふたり分のトレイを片付けに行った彗が、食後のホットコーヒーと紅茶を手に戻ってきた。

「いつものノンカフェインな。今日はピーチティー」
「ありがとうございます。桃のいい香りがします」

この食堂はドリンクバーが充実しており、妊娠中の羽海はカフェインの含まれたドリンクを避けているため、この半年は麦茶かノンカフェインのフレーバーティーを好んで飲んでいる。