やって来たのは、特別病棟専用のラウンジ。
自動販売機やドリンクサーバーが並ぶ普通病棟の談話室とは違い、カウンターには軽食を提供するシェフとバリスタが駐在している。
彗は羽海に確認することなくコーヒーをふたつ頼み、一番奥のソファ席にサーブするよう告げると、スタスタと先を歩いて行く。
(私、コーヒー飲めないんだけどな……)
仕方なくついていき彗と向かい合わせに座ったが、飲み物が来るまで話す気はないのか彼は無言を貫いている。
気まずい沈黙が五分ほど続き、ようやくコーヒーが運ばれてくると、彗はどこかの国の王子様のように優雅な仕草でひと口飲んでから話を切り出した。
「金はいくら使ってもらっても構わない。祖母の友人だという君のおばあさんの退院後の面倒もこちらでみよう。その代わり、条件が三つある」
「条件? あの、一体なんの話を――」
「俺に恋愛感情を持ち、執着しないこと。跡継ぎとなる子供をもうける努力をすること。それから、病院や財団の不利益になるようなスキャンダルは困る。不貞行為は一切禁止だ」
羽海の言葉を遮り、さらに畳み掛けてくる彗の不遜な態度に、困惑を通り越して苛立ちを覚える。



