「ぜひ貴美子さんに書いていただけたら。羽海さんを育ててくださった大事な人ですし、祖母からこの病院の恩人だと伺っています」
「いやねぇ、恩人なんて大層なものではないのよ。私はただ、茂雄さんと添い遂げたくて逃げただけですもの」

穏やかに笑う貴美子に証人欄のサインをもらい、その足で役所へ提出。晴れて羽海は〝御剣羽海〟となった。

「これからよろしく、奥さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」


初めて出会った夏から年を跨ぎ、真冬の二月下旬。

羽海のお腹は歩くのも大変なほど大きくなり、それに比例して彗の過保護も加速している。

初対面からは考えられないほど心配性で、なにかにつけて側にいたがる彗と、それをあしらう羽海という構図が出来上がっていた。

出産はもちろん御剣総合病院でする予定で、妊婦健診は手術の予定が入らなければ必ず一緒に来てくれる。

院内では彗の妻に対する過保護ぶりが噂になり、ただの清掃員が傍若無人なエリート医師をゲットした上、献身的な愛妻家に変身させたと、シンデレラなのか魔法使いなのかわからない話が広まり、過去の『トイレ掃除をするとイケメンエリートと結婚できる』という都市伝説に真実味が増しているらしい。