羽海の中にはない考え方を聞き、改めて彗の視野の広さに感嘆する。

物事の大きさに尻込みし〝どうしよう、どうしたらいいんだろう〟と立ち止まってしまう羽海に対し、〝まずは行動してみよう〟と前向きにさせてくれる。

どれだけ高い山だろうと山頂を見て怯むのではなく、目の前にある道を踏みしめて歩けばいいのだと気付かされ、背中を押された心地がした。

羽海は正直な気持ちを吐露する。

「理事なんて恐れ多いですが、医療や介護の現場でもっと役に立ちたいと思っていたので、多恵さんのお仕事に興味はあるんです。現場でも事務仕事でも、なんでも勉強してみたい」
「あぁ。今度ばあさんに伝えてやって。きっと喜ぶ」
「はい」

羽海は笑顔で頷いてみせる。

自分ひとりでは、病院や施設の運営に関わる仕事を学ぶ決断など、とてもできなかった。

学歴も資格もない自分には遠い世界の話だと思っていたが、彗に言わせれば『やる気の問題』らしく、楽観的にも思える意見がストンと羽海の中に落ちた。