「それより、ばあさんが言ってた話を聞かせてくれ。羽海を理事のトップに据えたいと言っていたが、知ってたのか?」
羽海は首を横に振り、今日初めて多恵から聞いた話や、実は介護の仕事に興味があると以前彼女に話したことなどを説明すると、驚きながらも彗は賛成だと言った。
「もちろん俺も強制はしないが、羽海がやってみたいと思うなら賛成だし、将来的に自分が理事長も兼任しないといけないと思っていたから、羽海が支えてくれるなら心強い」
「でも……私、最終学歴は高卒なんです。経営の知識なんてまったくないですし、財団の運営なんてとても考えられなくて」
この地域の中核病院や多数の介護施設を包括する組織の運営など未知の世界すぎて、とても現実味がない。
そもそも財団法人とはどんな仕事をしているのか、なにから学べばいいのか、そんな初歩的なことすらわからない状態なのだ。
「知識なんて今からいくらでも身につけられる。要はやる気の問題だ」
「やる気って……そんな簡単な問題じゃ……」
「簡単だろ。ばあさんだって女帝だなんて言われてるが、経営のスペシャリストではないし、ひとりでどうにかしてるわけでもない。ただ地域医療の発展のために、自分にできることをしてるだけだ」
彗は言葉を続ける。
「確かに昔よりも規模が大きくなったし、背負わないとならない責任も大きい。でも、一番は患者や利用者のためになにがしたいか、なにができるのかってことだ。できることを探すところから始めればいい。患者に寄り添って話し相手になったり、その家族を思って涙する羽海なら適任だと俺も思う」
「彗さん……」
「興味があるなら話だけでも聞いてみればいい。まずは動いてみないとなにも始まらないだろ」



