「よかった……」

嬉しさにホッと胸を撫で下ろしていると、頭上から予想外な言葉をかけられる。

「それに、不貞行為ってのだって結婚を断る口実だろ」
「あ、それは……」

隼人に無理やりされたキスを思い出し言い淀む。

しかし隠しごとは後々信頼関係に響くし、黙っているのは卑怯な気がして打ち明けることにした。

「……は? キス?」
「はい、あの、突然腕を引かれて、避けられなくて……」

眉間に皺を寄せ低い声で尋ねられた。

至近距離で見ても美しい彗の表情がみるみるうちに不機嫌な色に染まっていく。

「ごめんなさい」

羽海だって被害者であるはずが、彗のあまりの剣幕に思わず謝罪の言葉が漏れる。

「違う、羽海に怒ってるわけじゃない。最低な行為をした隼人と、それを防げなかった自分に腹が立ってるだけだ。ショックだったよな」