「ばあさんに取り入った金目当ての奴だと思ってたら、結婚は断るわブランドバッグは突き返すわ、挙げ句の果てに料理を食べてくれるだけでいいって。そんな女、これまで俺の周りには一切いなかった。惚れるなって方が無理だろ」
「だ、だろって言われましても……」

過去の自分の言動を羅列されても、どこに惹かれる要素があるのかわからない。

「確かに最初に羽海と結婚しようと思ったきっかけは、勘違いとはいえ財団のあとを継ぐためであって恋愛感情じゃない。それは弁解しようのない事実だ。でも今こうして必死で説明してるのは、跡継ぎなんて関係なく羽海を失いたくないからだ」
「彗さん……」

膝の上で重ねた手を握られ、真剣な眼差しで語られる言葉に、嘘の影はない。

(きっかけなんてなんだっていい。今こうしてお互いに想い合ってる。それだけで十分)

羽海が心の中で彗の言葉を噛みしめていると、焦ったような声で彗が呟く。

「あークソ。これ以上どう言えば信じられる? 傷ついた羽海を置いて病院に戻ったり、話し合いの場に遅れたりしてたら、羽海からしたら到底信じられないよな」

前髪をぐしゃぐしゃと掻きむしる彗の手に、自分の手をそっと添える。