「ちょ……っ、なんで泣くんだよ」
ふたり分の飲み物をサイドテーブルに置き、彗はいつになく狼狽えた声で顔を覗き込む。
「ごめんなさい、違うんです。自分から出ていったくせに、ここに帰ってこられたのが嬉しくて……。たくさん連絡くれてたのに、本当にすみませんでした」
「謝るな。羽海はなにも悪くない。ばあさんも言ってた通り、不安にさせた俺が悪い」
「そんな……」
「その上、向こうは財団を継がせる気はなくて、全部俺の早とちりって……。カッコ悪すぎだろ」
大きくため息をついたあと、彗は初対面の時の話を聞かせてくれた。
「ばあさんに相手を紹介するって聞かされた時は、実際理事就任の話もあったし、三十までには結婚しておけっていう意味だと勝手に思い込んでたんだ。相手に執着されて仕事の邪魔をされるのが嫌だったから、俺に一切興味がなさそうで、何度結婚を持ちかけても断ってくる羽海が最適だと思った」
「結婚しないと言うたびに嬉しそうだったのは、そういう意味ですか」
「俺が結婚するって言ってるのに、断る女がいるとは思わなかったんだよ」
「とんだ殿様思考ですね」
肩を竦めながら呆れて苦笑すると、彗も可笑しそうに笑う。



