彼女たちの言い分は至極正論で、その通りだと思う。
自分の家の近くで不審者が出たと聞けば怖いし、セキュリティも甘い木造の古い一軒家に二ヶ月近くひとりで過ごすのは不安しかない。
だからといって、見知らぬ男性と急にお試し同居などあり得ない。
ふと、羽海はここまで無言を貫いている彗が気になり、そちらを見やる。
多恵の隣に座る彼は噂に違わぬイケメンで、女性に不自由などしていないだろう。
きっと断ってくれるはずだと縋るような目で彗を見ると、正面のテーブルに落としていた視線を上げ、その眼差しが羽海に向けられた。
初めて真っ直ぐに目と目が合い、その力強い瞳に自分が映っている。
彼をよく思っていない羽海でさえ、ドキッとしてしまう。
(うわぁ……こんなに整った顔の男の人、初めて見た)
絶世のルックスを持ち、この病院の跡取りで傍若無人な俺様だとされている彗が、祖母の言いなりになって羽海と結婚を前提に同居するなんて突飛な話を受け入れるわけがない。
祖母に弱い自分が断れなくても、相手が断ってくれれば簡単に話が済むではないか。
そう結論付けて安心した羽海の耳に届いたのは、考えていた正反対の言葉だった。



