意味がわからないといった表情で固まった彗を見上げ、羽海は同情すら覚えた。
(そりゃそうだよね。これまで自分が継がなくちゃと思ってたところに、突然私の名前が出てくれば……)
なんだかこのやり取りに自分の名前が出てくるのが居たたまれず、羽海は無理やり話題を変えた。
「あの、救急の応援に行ったと聞きましたが、もう大丈夫なんですか?」
「……救急の夜勤の先生が早めに来てくれて交代してきた。今日はもう帰れる。それより、羽海が理事に?」
質問に答えてはくれるものの、話題が逸れることはなかった。
(あぁ、もうなにから彗さんに話したらいいのかわからないよ……)
困り顔の羽海とは対照的に、多恵は楽しそうに微笑んで手を振った。
「ほらほら。まずは帰ってふたりで話してらっしゃい。病院や財団のことよりも大切な話があるでしょう?」
多恵の言う通り、まだ羽海は自分の口から彗に妊娠の報告をしていない。それどころか、結婚を白紙に戻す発言をして家を飛び出したままだ。
「あぁ。話は帰ってからまとめて聞く」
そう言うと、彗は羽海の手をぎゅっと握った。



