「彗が仕事ばかりで休みもなく働いているから、恋愛する気がないのなら紹介すると言ったのよ。医者はとてもハードな仕事だからこそ、プライベートでは安らぎが必要なの。羽海さんなら、あなたを任せられると思った」
「それじゃ、あとを継がせるために結婚させたかったわけじゃ……」
「そんなの考えたこともないわ。家庭を持っていないと信頼がないだなんて、そんなカビの生えた価値観を私が持っていると思う?」
多恵が羽海と彗を引き合わせたのは財団のためでなく、単なる老婆心。
真実を知った彗は大きく息を吐き、前髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
ふと隼人が不在なのに気付き、彗は周囲を見渡した。
「……隼人は?」
「さっき帰ったわ。あの子には就業規則違反で解雇すると伝えたの」
「就業規則違反?」
「職場の女性に対するセクハラやパワハラ、それに羽海さんに対する発言も酷いものだもの。あの子は一度きちんと報いを受けなくてはダメね。御剣の名前の通用しないところで、一からやり直させるわ」
すべてを説明しなくとも察したのだろう、彗は納得するように小さく何度か頷いた。その様子を見て、多恵が少し申し訳なさそうに弁解する。
「彗が病院や財団の未来を考えてくれるのはもちろん嬉しいのよ。でも、あなたが全部を背負う必要はないの」
「でも現実的に隼人に任せられない以上、いずれ俺が」
「だから羽海さんがいるじゃない。さっき彼女にも話したけれど、私はいずれ彼女に理事のトップに就いてもらいたいと考えているの」
「……は?」



