「彗さん……」
たった数日離れていただけなのに、もうこのぬくもりが懐かしく恋しく感じる。それは彗も同じなのか、いつまで経っても腕が解かれる気配はない。
汗をかいているせいか、彼自身の匂いを強く感じる。大きく息を吸い込むと、ホッと安らげる心地がした。
出会って二ヶ月足らず。まだ抱きしめられた回数は多くない。
それでもこうして触れ合うと、ドキドキするのとは別に、自分の居場所に戻れたような安心感があった。
(やっぱり、私は彗さんが好き)
羽海が改めて自分の気持ちをしっかり自覚している間にも、彗は名前を呼んだきり、なにも言葉を発さない。
それが彗の焦燥を如実に表している気がして、宥めるように大きな背中に腕を回すと、やれやれといった表情で肩を竦める多恵とバチッと目が合った。
(そうだ、ここ理事長室……!)
羽海は赤くなればいいのか青くなればいいのかわからず、慌てて背中に回していた腕を自分と彗の間で突っ張り、抜け出そうとする。



