天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「去年の春から、あなたが清掃している姿をずっと見ていたわ。丁寧な仕事、患者さん目線に立った気配りや寄り添う温かさ。まさに私が探していた理想の経営者像だった。それとは別に、こんな素敵なお嬢さんが孫のお嫁さんになってくれたらどんなにいいだろうって思っていたの。貴美子さんの孫だと知ったのはそのあと。ありきたりな言葉だけど、運命だと思ってすぐに彗を呼び立てたのよ」

羽海の脳裏に、いつかの祖母の言葉が蘇る。

『運命の相手は、探さずとも案外近くにいるものよ』

あの時は、まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。

それとも、貴美子や多恵にはこうなることが予想できていたのだろうか。

「私……突然で、どう答えたらいいのか」
「そうよね。もちろん強制ではないし、単なる私の希望なの。正直に言って簡単な仕事ではないし、大変な思いをする方が多いかもしれない。勉強することも多いし、医療や介護は綺麗事だけじゃやっていけない世界よ」
「はい」
「でも、その先に患者さんや利用者さんの笑顔がある。その家族の幸せがある。それを守る仕事はやり甲斐があるし、なににも代え難い喜びだと私は思っているの」

誇りを持って仕事を語る多恵は凛として美しく、同じ女性として憧れを抱いた。

財団の運営や理事など羽海には遠い世界のように思えるが、求めているものは同じなのかもしれない。

まだ多恵の希望に頷く決心はできないが、必死に勉強して、少しでも彼らの役に立ちたいという夢は明確になった。