「はぁ? ふざけんな!」
羽海が絶句したまま動けないのをよそに、隼人は立ち上がって激昂した。
「うちの親戚でもなんでもない女にあとを継がせるって正気かよ。結局、俺じゃなく彗に継がせたいだけの詭弁だろ」
「いいえ、元々羽海さんにお願いするつもりだったのよ。あなたがなにを勘違いしたのか知らないけれど、私は彗に結婚と引き換えに理事就任を持ちかけたわけではないわ。仕事ばかりで恋愛や結婚に縁がなさそうな彗を見かねて、私が知る限り一番素敵なお嬢さんを紹介しただけ。彗の理事就任は、あの子の実績を見ても自然の成り行きよ」
「なにが自然の成り行きだ。御剣家の長男は俺だぞ! まず彗より俺が先だろ!」
「隼人、あなたはこの財団の存在意義を理解していない。ただ大金を稼ぐだけの道具にしか思っていないあなたが理事に名を連ねるのは許しません」
「な……っ」
青筋を立て絶句する隼人だが、多恵の意見はもっともだと思う。
彼は『理事なんて金持ち相手に寄付をせがむだけ』と言っていたし、患者や利用者に寄り添う気持ちなどまったくなさそうだ。
「去年忠告したはずよ。将来を見据えてきちんとしなさいと。それでもあなたは変わらなかった。それどころか、自分の立場を利用して職場の女性にセクハラ発言をしたそうね。再三注意しても改善されないと現場から告発がありました。今日付けで就業規則違反で解雇すると通告を出したわ。明日にでも職場から通知がいくでしょう」
血の繋がりゆえの甘えか、まさか自分が解雇されるとは微塵も思ってもいなかった隼人は散々言い訳を並べていたが、多恵の気が変わらないとわかると、口汚く悪態をついて理事長室を去っていった。



