天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


そんな簡単なことにやっと気がついた。

羽海はお腹に手を添え、背筋を伸ばす。自分の中に宿った命が、自信と勇気をくれるような気がした。

「この子の父親は、誰よりも優秀で優しい医師の彗さんです。決してあなたじゃない。私は患者さんを優先してこの場にいない彼を尊敬していますし、そんな彼こそ大きな財団を継ぐに相応しい人だと思います」

キッパリと言い切ると、不愉快そうに顔を歪めた隼人の奥で、多恵がパンパンと大きく手を叩いた。

「私の目に狂いはなかったわね」

拍手のあとで、多恵がにっこり笑う。

「彗にも聞いてもらいたかったけれど、来られそうにないから話を始めるわ。御剣健康財団は隼人でも彗でもなく、羽海さんに継いでもらいたいと考えているの。将来的には、彗がここの院長、羽海さんには理事長という形でね」

あまりにも想定外の発言に、一瞬なにを言われたのかわからなかった。

(私が……理事長?)

多恵の言葉を頭の中で何度も反芻し、ようやく意味を理解した途端、雷に打たれたような衝撃を受けた。