寂しくないように愛情いっぱいに、かといって甘やかし過ぎないように家事やマナーなどの躾をしっかり施してくれた祖母には感謝してもしきれない。

そんな祖母に心配をかけているのは心苦しいが、奥手で鈍感な羽海は初恋の記憶や淡い片思いの思い出はあるものの、恋愛経験はゼロだった。

「羽海ちゃんの年の頃には、おばあちゃんはもうあなたのお父さんを産んでたのよ」
「そうだけど、結婚とか出産だけがすべてじゃないし」
「もちろんそうよ。昔とは違うんだもの、仕事や趣味に生きる女性がいたっていいわ。だけど、羽海ちゃんはいつか結婚したいって思ってるでしょう? せっかくのご縁だから、試しにお付き合いしてみたらどうかと思ったのよ」

二十四歳にもなって彼氏のひとりも紹介したことがない羽海を懸念し、親友の孫を推したくなるのもわからなくはない。

けれど、いくらなんでも話がまとまるのが早すぎる。

「彗も私に紹介できるような女性はいないようだし。どうかしら、試しに一緒に住んでみるというのは」
「あら、いいわね! 最近の若い人は結婚前に一緒に住んでみるのが主流だと言うし、ちょうどいいじゃない」

とんでもない提案を軽い調子で投げかけてくる祖母ふたりに目眩がする。

「よかったわ。私が入院することになってしまって、あの古い家に羽海ちゃんひとりでは心配だったのよ。ほら、先々週の回覧板で、近所に若い女性があとをつけられる被害が何件か起きてるって書いてあったじゃない?」
「そうだけど、警官が巡回してるって」
「なに言ってるの。それだけじゃ不安だわ」
「そうよ、羽海さん。なにかあってからでは遅いのだし」