天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「彗は救急の応援に呼ばれたから、そちらに向かうそうよ」
「は? こっちが先約だろ」
「事故でもあったんでしょうか?」

不機嫌な隼人と心配そうな羽海は対照的で、そんなふたりを多恵はゆっくりと見比べている。

「あんた、一応婚約者なのに全然大事にされてないじゃん。妊娠してんのほっといて、他人の手術の助っ人優先する男のどこがいいの?」

隼人は祖母の視線に気付くことなくバカにしたように笑うと、羽海の隣にどさりと腰を下ろす。

反動で身体が揺れたこと以上に彼の言葉が不快で、羽海は眉を顰め距離を取って座り直すと、背中を伸ばして毅然と言い返した。

「彗さんは医者です。目の前の救うべき命を優先してなにが悪いんですか」
「いい子ぶってんなよ。本当は自分を優先してくれないなんて不満だろ? あいつを選べば、今後こんなことが日常茶飯事なんだぞ。俺にしとけよ」
「構いません。それに、もしも彼があとを継ぎたいがために応援要請を断ってここに来るような人だったら、私は婚約なんてしていません」

反射的に言い放ち、自らの発言にハッとする。