羽海が彗に『不貞行為を働きました』と言ったのは、もちろん無理やりされたキスのことだが、羽海が妊娠したと聞いて隼人の子かもしれないと疑念を持ったに違いない。
悔しいが隼人も言っていた通り、検査をしてもどちらが父親かなんてわからないだろう。なぜなら彼らは同じDNAを持つ双子なのだから。
どちらが父親かわからない子供なんて、初対面で彗が言っていたスキャンダルそのものだ。
(どんな顔をしていればいいんだろう……)
感情的に口走った自分の発言を後悔しながら、羽海はこれからここに来る彗をドキドキしながら待ち続けた。
憂鬱な気分でふかふかのソファに座っていると、待たされている不満でイラついた隼人がドンと執務デスクを叩く。
「彗はまだかよ。もう十分も過ぎてるだろ」
「物に当たるのはやめなさい。いい大人がみっともない」
多恵が嗜めると、隼人は大きな音を立てて舌打ちする。それとほぼ同時に、内線のコール音が室内に響いた。
立ち上がった多恵がデスクにある電話を取り、相手の言葉に何度か頷いたあと「わかったわ。頼みます」と告げて受話器を置いた。



