天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


その数日後。仕事を終えた羽海は約束通り八階フロアへやって来た。

初めて入った理事長室は広々としていて、完全防音らしく窓の外や廊下の音などは一切聞こえない。

今部屋にいるのは、ここの主である多恵と羽海、そして隼人の三人。

多恵と羽海は応接ソファで向かい合って座り、隼人は少し離れた執務デスクに腰掛けたり、立ち上がって窓の外を見たりと落ち着かない様子だ。

本来ならば隼人とは顔を合わせたくないが、彼も当事者なので仕方がない。なるべく視界に入れないよう、静まり返った空間でひたすら俯いて沈黙に耐えた。

そして隼人以上に顔を合わせにくいのが、到着が遅れている彗だ。

あれから羽海は彗の留守を見計らって着替えなどを取りに戻りはするものの、ずっと実家で生活していた。

あきらかに接触を避けているのは彗にも伝わっているだろうし、気まずいことこの上ない。

それに、羽海の妊娠をどう受け取ったのかを知るのも怖い。

多恵には彗も〝自分の子だ〟と主張したらしいが、本気でそう信じているのか、隼人のように〝その方が都合がいい〟と思ってのことなのかわからない。