多恵は一度言葉を切ると、羽海を見据えって真っ直ぐに語った。
「患者さんや利用者さんに寄り添い、心から人に奉仕する精神が必要。そういう人じゃないと、自分の後は任せられないわ」
羽海は話を聞きながら、だからこそ隼人でなく彗に継いで欲しいと思っているのだと納得した。
医師として努力を重ね、プライベートな時間でも必要とされれば駆けつける彗の姿を思い出し、彼こそ後継者として相応しいと感じる。
「あの、どうしてその話を私に……?」
「隼人も彗も、あなたのお腹の子供の父親は自分だと主張しているの」
唐突な話題の転換に、ひゅっと息をのんだ。
呼吸が浅くなり、胸がドクドクと嫌なリズムを刻んでいる。
隼人のいやらしい笑顔が蘇り、羽海は顔を顰めて唇を噛んだ。
「誤解しないで。あなたを責めているのではないの。むしろ私たちの事情に羽海さんを巻き込んでしまって、申し訳ないと思っているのよ」
ぎゅっと胸を押さえている羽海の腕に添えられた多恵の手は、とても温かかった。



