会ったことも話したこともない男性に、どうしたら運命を感じられるというのか。

いきなり祖母から結婚前提の交際を勧められたところで、受け入れられるわけがない。

「待ってよ。おばあちゃんだって決められた結婚が嫌でおじいちゃんと駆け落ちしたんでしょ? どうして急に……」

旧華族出身の貴美子は親に決められた結婚を断り、彼女の家の庭師として働いていた祖父と家を出たのだと、小さい頃から何度も聞いていた。

ロマンチックな祖父母の馴れ初めは羽海にとって憧れで、いつか貴美子のように素敵な恋がしてみたいと思っている。

それなのになぜ自分に結婚相手をあてがおうとするのか、羽海は理解できなかった。

ソファから身を乗り出してベッドの上の貴美子に反論すると、彼女は拗ねたように口を尖らせる。

「やぁね、なにも必ず彗さんと結婚なさいとは言ってないでしょう? だけど羽海ちゃんったら、学生時代からひとりも恋人を連れてきたことがないし、おばあちゃん心配なのよ」
「う……」

そう言われると痛い。高齢の祖母は、自分がいなくなったあと、ひとりぼっちになってしまう羽海をよく心配していた。

祖父は羽海が生まれる前に病気で、両親は羽海が小学校に上がる前に事故で亡くなっており、羽海は貴美子に育てられた。

保険金などで日々の暮らしの心配はなかったものの、貴美子ひとりで小さかった羽海を育て上げるのは大変だったに違いない。