「相変わらずの仏頂面だな。それの報告をばあさんにしに来たんだよ」
彼が顎で指し示した先に視線を移すと、きちんと整頓された多恵のデスクの上に、一枚の小さな紙が置かれている。
扉の前に立ったままだった彗は室内の奥にあるデスクの前まで足を進め、その紙がエコー写真であると気付いた。
無表情で手に取って見ると、産婦人科で用いられる超音波検査の写真らしく、胎嚢の中にある胎芽の存在をはっきりと確認できる。
(まさか……)
ある予感に、写真を持つ指先が小さく震えた。
「これは……」
「成瀬羽海から貰った。妊娠したんだって」
ざあああっと全身に鳥肌が立ち、脳みそが沸騰するような感覚に陥った。
(羽海が妊娠している、だと……?)
間違いなく彗の子だ。彼女の体調不良は夏バテではなく、つわりだったのだ。
(羽海は今どこでなにをしている? 俺は、ここで一体なにをしているんだ……!)
きっと妊娠したことを彗に告げたかったに違いない。



