「もしかして、このお部屋」
「そう、私の名前をたまたま見つけた多恵さんが今朝病室に訪ねてきてね。今ここがあいてるからって。その方がたくさんおしゃべりできていいって言ってくれるものだから、お言葉に甘えさせてもらったのよ」
「でも、この部屋すごく高いんじゃ……」
旧友に久しぶりに再会して喜んだ多恵が、気前よくこの部屋に通してくれたらしい。それにしても、豪華すぎるこの待遇には首を傾げてしまう。
動揺して多恵を見つめる羽海に、彼女は頷きながら言った。
「私が勝手にしたことだもの、支払いなんていいのよ。そんなことより、結婚を前提にうちの彗とお付き合いをしてみるのはどうかと思っているの。ほら、彗ももう三十で、そろそろ家庭を持っていい頃だし。羽海さんがとても素敵な子だっていうのは、一年近くあなたとおしゃべりしてきた私も知っているから」
(け、結婚を前提に、お付き合い……⁉)
いまだに多恵がこの大病院の理事長だったという衝撃が大きすぎて言葉が出ない羽海を置いてけぼりにするように、続けて貴美子が畳み掛けるように話し出す。
「偶然多恵さんに再会したのも、孫の彗さんが羽海ちゃんと年頃が近いのも、なにかのご縁でしょう? 同じ職場というのも、なんだか運命みたいじゃない」
乙女思考の貴美子がベッドの上で興奮気味に話すが、まったくもって話についていけない。



