帰宅すると、待ちくたびれたのか羽海はソファで眠っていて、その可愛らしい寝顔にグッと喉が鳴る。

まだ一度しか触れていない羽海の素肌を暴いてしまいたい欲望が首をもたげそうになるが、彼女は初めてだった上、最近では夏バテで具合が悪そうにしていた。

自分の欲求よりも羽海の気持ちや体調を優先しなくてはと自分を戒め、ぐっすり眠っていた羽海を起こす。

体調が悪いわけではないと聞き、ホッとしたのも束の間、自分と結婚するのは財団を継ぎたいからなのかと問う羽海の言葉に驚き固まった。

「その話、誰から……」

羽海に病院や財団の跡継ぎについて詳細に語ったことはなく、結婚後も親戚付き合いや経営などの面倒事を背負わせる気もなかったため、なぜ多恵が羽海との結婚を持ちかけたのかという話もしたことはない。

それなのに羽海から『彗さんは、私と結婚したら財団を継げるんですか?』と聞かれ、真っ先に誰から聞いたのかという疑問がよぎった。

思わず呟いてしまった小さな声を聞き取った羽海の顔はみるみるうちに青ざめていき、彗は自分の失言に気付いた。

(違う。まずは否定しなくては)