「私ね、羽海さんのような真面目で気立てのいいお嬢さんが彗のそばにいてくれたらって、ずっと思っていたのよ」
なんでも、孫にいい人がいないのを心配していた貴美子と多恵は、お互いの孫を会わせてみようと話が盛り上がったのだという。
「お互いの孫って……」
「だから、羽海ちゃんと彗さんよぉ。彼は多恵さんの息子さんの次男なんですって」
貴美子がベッドから楽しそうに補足するが、羽海は一瞬でその意味を理解すると、サーッと血の気が引いた。
彗はこの病院の院長の息子であり、病院やその他の施設を束ねる財団のトップ、女帝と呼ばれるほど有能な理事長の孫だ。
(ま、待って。御剣先生が多恵さんの孫ってことは……多恵さんが女帝ってこと⁉)
以前から知っている多恵といえば、中庭の花壇に水をやっていたり、メーカーから納品されたダンボール箱を台車に乗せて移動していたりとエプロン姿で細々働いていたので、てっきり事務員かなにかだと勝手に思っていた。
もちろん目上の相手に対する礼儀を疎かにしていた訳ではないが、理事長だと知ると、なにか失礼なことをしていなかったか途端に不安になる。
しかし、なぜ急に病室が変わったのかの疑問も答えがわかる気がした。



