不安に飲み込まれそうになりながらタクシーを降りると、久しぶりに自宅の前に立ち、木造二階建ての我が家をしみじみと見上げた。

(彗さんのマンションとはあきらかに世界が違う。やっぱり私はお城で暮らすシンデレラにはなれなかった……)

リフォーム工事が入っているはずの家の鍵を開けて中に入る。まだ住めそうにないのなら、ホテルを予約しなくてはならない。

彗の家で暮らし始めて一ヶ月以上経っているし、そろそろ終わっているだろうと羽海は廊下を進む。

(え、あれ……?)

羽海の予想とは裏腹に、終わっているどころか、家の中はなにも変化が見られない。玄関から廊下、風呂場やトイレも見たが段差の多い作りはそのままだし、階段に手すりすらついていない。

(どういうこと? 工事が入るから彗さんの家にお邪魔するって話だったのに)

意味がわからず、唖然とする羽海。

祖母に電話しようかとも思ったが、すでに時刻は午後十一時を回っていた。

(彗さんのことも工事のことも、今日はこれ以上なにも考えたくない。全部明日……)

今日中に話を聞くのを断念し、一階の祖母の寝室に布団を敷く。二階にある羽海の部屋は空っぽのままだった。