彗に隼人の言葉を否定してもらう未来ばかり願っていて、肯定された場合の身の振り方を考えていなかった。

(どうしよう。もうここにはいられない)

よろよろと立ち上がるとリビングから自室へ移動し、少しの着替えを持って彗のマンションを出た。

ひとまず実家へ向かったのは、他に行くところが思いつかなかったからだ。

大通りで拾ったタクシーの車内で、いろんなことが脳裏を駆け巡る。

一番はお腹にいる子供のことだ。

(結局、彗さんに打ち明けられなかった……)

祖母の旧友の孫であり御剣家の血を引いた、彗とのたった一夜で授かった大切な宝物。

彗が『跡継ぎをもうける努力をすること』と結婚の条件に入れていたくらいだ、存在を知られれば跡継ぎとして確実に奪われてしまうだろう。

彗に直接伝えられなかったが、少なくとも隼人には妊娠の事実を知られてしまっているので、早めに東京近郊から離れた方が安全かもしれない。

果たして誰の手も借りず、ひとりで育てられるだろうか。