「患者さんと、そのご家族を、助けてあげてください」

それだけ口にするのが精一杯で、涙を見せまいと唇を噛みしめる。

羽海の様子に歯がゆそうにした彗だが、時間が迫っている中それ以上言うべき言葉が見つからないのか、拳を膝に叩きつけて立ち上がると、そのままリビングを出ていった。

しばらくして玄関の扉の開閉音が聞こえ、室内は耳が痛くなるほどシンと静まり返る。

ソファから身動きひとつ取れず、ギリギリまで堪えていた涙がぽたりと一粒零れると、堰を切ったように止まらなくなってしまった。

信じたい。でも、どう信じたらいいのかわからない。

結局、羽海は自分に自信がないのだ。

なぜ彗が羽海を選んだのかがわからない。だから〝財団を継ぐため〟という大義名分のある隼人の話に信憑性を感じてしまう。

あれだけ甘やかされ、大事にされていると感じていたはずなのに、それを羽海の思い違いだと隼人に嘲笑われ、わずかに芽生え始めていた愛されているという自信は、日の当たらない花のように萎んで枯れていく。

悲しくて、情けなくて、不安で仕方がない。

ぐちゃぐちゃな感情のまま泣き、涙が枯れたあともしばらく呆然としていた。