けれど実際はただ財団を継ぐため、多恵が選んだ羽海と結婚するための芝居なのだ。
真実に目を瞑って結婚したとしても、いずれ今を形取る生活すべてが打算に満ちたものなのだという惨めさがじわじわと心を侵食し、破綻するに決まっている。
だったら、今別れを決めるべきだ。
「なので、結婚できません」
「どういうことだ。そもそもどうして隼人を知ってるんだ」
「病院で待ち伏せされたんです。私と結婚すれば自分が財団を継げるはずだと」
仕事終わりに声を掛けられたのだと告げると、彗は顔を顰めて大きく舌打ちをする。
「バカが。そんなわけないだろう。羽海、聞いてくれ。俺は」
その時、彗のスマホが二人の間を切り裂くように鳴り響いた。
ハッとしたまま動けないでいる彗が躊躇っている間に一度着信が切れたが、再び急かすようにけたたましいコール音が鳴る。間違いなく病院からだろう。
「出てください」
「羽海」
「いいから。今は、私よりもあなたを必要としている人がいるんです」



